ワーママ弁護士奮闘記in東京

仕事と子育てに奮闘する、ワーママ弁護士のブログです。生きてりゃもう御の字。

ウィンウィン交渉なんて気の持ちよう、だけどその「気」が超大事

ねぇ、私、ずーっと思ってたんです。

 

「ウィンウィン交渉」なんて言うけれど、ただのキレイごとだろそれ、って。

 

 

◆闘わなけりゃ、弁護士じゃない

 

弁護士というのは、所詮は闘う生き物です。

こじれきった当事者の間にわざわざ割って入っていって、自分の依頼者ために全力で闘うことを生業とします。

 

もちろん、訴訟を全くやらない弁護士もいるのですが、他の専門家と比べた時の弁護士の価値って、やっぱり「行くところまで行ったら、つまり訴訟になったらどうなるか」が見通せるってことだと思うんです。

 

「闘う弁護士」みたいなキャッチフレーズの事務所もありますが、その事務所の弁護士がどうかはさておき、世の中には「生まれついての喧嘩好き」の弁護士っているんですよね。

他人から攻撃されても、しゅんとするどころか闘志をメラメラ燃え上がらせて嬉々として反撃に打って出る弁護士。

全力で他人をぶん殴ることを、躊躇しないどころか、快感に感じちゃう弁護士。

 

残念ながら、いや残念じゃないのかな、よくわかりませんが、私はそういう性格ではありません。

他人から攻撃されるとすごく嫌な気分になるし、他人をメッタ打ちにするのにも躊躇いを覚えます。

 

でも私だって弁護士のはしくれですから、依頼者のために全力で相手方を叩きのめしに行かなきゃいけないわけです。

弁護士1年目の時、先輩弁護士から「闘争心が足りない」って注意されて以来、一生懸命、闘争心を掻き立てるべく、髪振り乱して闘いな身を投じてきたんですね。

 

でもね、生まれついての喧嘩好き弁護士には、やっぱり勝てる気がしない。

そして、好きじゃないし得意じゃないことやるので、疲れてやんなる。

 

そこで、ウィンウィン交渉に話は戻るわけです。

 

 

◆食うか食われるかなのに、ウィンウィンってあり得んの?

 

交渉には、

・ウィンウィン交渉

・ウィンルーズ交渉

があるそうな。

 

そりゃウィンルーズよりウィンウィンの方がいいよね。

なんか響きがハッピーだしね。

 

でも、弁護士は依頼者にとって最善の結果が得られるようにベストを尽くさないといけない。

何が「最善」なのかは難しいけど、わかりやすいのは金額。

つまり、相手からできるだけ多くふんだくんなきゃいけない。

ねぇ、こんな状態でウィンウィンとかあり得んの?

 

ウィンウィンの関係を築くには、信頼関係がベースになるそうな。

ところが、弁護士のところに来るお客さんは、既に当事者同士で揉めきっている。

スタート時点で、相手方との信頼関係なんてゼロどころかマイナス。

無理じゃない、ウィンウィンのベースなくない?

 

そして、そのこじれきった2人の間に弁護士が割って入るんだけど、弁護士は、相手方にとっては敵の雇った傭兵なわけさ。

受任通知とか送るじゃん。もうそれゴング鳴らしてるのと同じわけさ。レディーファイッ!カーン!って状態なわけ。

そんな状況でスタートしといて、信頼関係ってマジ難しくない?

 

別にこっちはそんなオラオラ戦闘モードじゃなくっても、相手方が戦闘モードなことも多いわけ。

言ってみれば、相手からガンガンにゴング鳴らされまくってるわけ。

そんな食うか食われるかの状況で、「いやー穏便にやりましょうよー」なんてヘラヘラした態度でリングに上がったら、瞬時にやられてしまうのよ、そうでしょ。

特に私みたいに若い女は、ただでさえ舐められんのよ。(いや若くないんだけどさ。辛いよね中年女性って。プライベートではババア扱いされ、仕事では小娘扱いされ。)

第一印象って重要だから、最初から「舐めんじゃねぇ」「こう見えて結構やりまっせ」って、こっちもファイティングポーズ取ってガンガン行かなきゃいけないわけ。

ねぇ、こんな状況で、ウィンウィンとか、ねぇ、あり得んの???

 

 

◆っていうか、ウィンウィン交渉って何よ?

 

思考がスタックした時は、定義から考えてみましょう。

 

Google先生で調べたら、グロービスの記事が出てきた。

https://diamond.jp/articles/amp/92536?display=b

 

「交渉で目指すべきものとして、使われることの多い「ウィンウィン(Win-Win)」という言葉。
どちらかが勝って、どちらかが負けるというのではなく、両者ともが利益を得られることを指します。交渉のゴールとして理想的な状態です。」

 

そうだね、理想だね。

 

「両者が得られる利益の合計を増やす」

「お互いが得られた価値の大きさの合計を増やしていこうという交渉を、「価値創造型」交渉と呼びます」

「「自分にとって価値が小さく、相手にとって価値が大きい論点」については相手に譲歩し、その見返りに、「自分にとって価値が大きく、相手にとって価値が小さい論点」でこちらに有利にしてもらうのです。」

 

そりゃそうだろうけどさ、オレンジが欲しい姉妹が、実と皮を分け合ってハイ、ウィンウィン♪の教室事例みたいに、私とあなたの重きを置く価値がパキッと別れることなんて、そうそうない。

 

往々にして、金額の問題がどちらにとっても一番大事で、どっちかが勝てば、どっちかが負ける。

 

例えば、和解の場面。

こちらは100万だと思ってる。

相手は0円だと思ってる。

けどまあうやむやにして50万で手を打つ。

単純に金額だけ見れば、ウィンウィンじゃないよね、むしろルーズルーズ。

 

こんな場面での価値創造って何さ?

支払期限を伸ばすとか?分割払いにするとか?

70万を7回払いで和解したら、価値創造したことになるわけ?なんか違くない?

 

 

◆一方のビッグウィンは、他方のスモールウィン

 

滝本哲史さんの本にも書いてあったけど、ウィンウィン交渉とは言いつつも、どっちも同じくらいウィンでハッピーってことはない。

 

一方のビッグウィンは、他方のスモールウィンなのです。

 

ってことはよ、判決でゼロ・100とかになりさえしなければ、それ大概ウィンウィン(片方はすごいビッグなウィンで、もう片方は極小ウィンかもしれないけど)ってことにならない?1対99だって、ウィンウィンでいいの?え、それでいいの?

 

むしろ、もういっそ気分の問題?

両者ともそれぞれ勝手に勝ったような気になれれば、0対100だって、ウィンウィンってことなの?

 

 

◆ウィンウィン交渉なんて気のもちよう、しかしその「気」が超大事

 

いや、違うか。

むしろ、両方とも勝ったような気分になる「ことを目指して交渉する」のが、ウィンウィン交渉なのかな。

 

ウィンルーズ→自分だけがウィンになることを目的として、殴る。

 

ウィンウィン→(自分のウィンの最大化は目指すんだけど)相手に信頼してもらえるように誠実な態度で、相手の要望も考慮に入れて、難しいけれど、相手と自分の利益を最大化すべく価値創造しようと思いながら、話し合う。

 

ウィンウィン交渉って、つまり、交渉の結果というより、交渉に臨む態度、言ってしまえば気のもちようなのかな。

 

だけど、「焼き尽くせ!殲滅ダー!」って思いながら交渉するのと、できたらウィンウィンになれたらいいなと思いながら交渉するんじゃ、交渉のプロセスも、交渉に対する負担感も、そして最終的な結果(和解案)も、変わってくるんじゃないかな。

 

 

◆やたら攻撃的なの意味なくない?ってか有害じゃない?

 

いやね、私、喧嘩好きの弁護士の何が嫌って、「無意味に攻撃的」なのが嫌なんですよ。

 

そりゃわかってますよ。

弁護士沙汰なんて所詮ケンカです。

「価値創造」なんてキレイごと言ってる場合じゃなく、自分のウィンを出来る限り増やすように闘う陣取りゲームなんです。

当事者にとってみれば、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いでしょう、ええそれが人情ってもんです。

 

でもね、だからって、弁護士がやたらめったら攻撃的、威圧的な態度取るのは、逆効果じゃないですか?

それが作戦なのだとしたら、その作戦間違ってませんか?

 

「今すぐ100万よこせ、さもなくば殴る」って、人として普通のコミュニケーションじゃないでしょ。

 

いや、わかるよ。

「私はあなたと話し合ってこの問題を解決したいんです。私としては、今すぐ100万払って欲しいけど、どういう条件だったら払えますか?」って丁寧にお話ししても払ってくれないから、弁護士沙汰になるんだよね。

そんな輩には、ある程度の脅しも必要なのかもしれないね。

 

でもさぁ、北風と太陽じゃないけど、普通の人は攻撃されたら、防御・反撃体制に入るでしょ。

コートの前必死に掻き合わせて何としても脱がされまいとしている人から、力ずくでコートもぎ取るの大変でしょ。判決とって強制執行するのって、時間もお金もかかるし、空振ることだってあるでしょ。

もしまだ話し合いの余地があるのであれば、もうちょっとあっためてあげないと、解決策引っ張り出せなくない?

 

弁護士が他人の争いごとに首突っ込む価値って、当事者じゃないってことでしょ。

当事者じゃないから、戦局が客観的に判断できる。当事者じゃないから、冷静になれる。坊主は憎くても、袈裟は許すことができる。そういうことでしょ。

それなのに、当事者と一緒になって、感情的になり、怒鳴り、高圧的な態度を取って、どうすんの??

一瞬相手もビビるけど、弁護士沙汰になってるのに、それだけで「はいわかりました」って素直に払うわけなくない??

うわマジやっべー弁護士だなって、引かれるだけじゃない??

 

 

◆ゴングが鳴ってもリングに上がるな

でも、どんな相手方が出てくるかは選べないわけです。

 

私にできることはと言えば、相手の弁護士からガンガンにゴングを鳴らされても、相手の設営したリングに上がらないこと。

 

苛つかず、挑発にのらないこと。

かと言って、おびえたり、ひるんだりもしないこと。

リラックスした気持ちを保つこと。

失礼な相手に対しても、失礼な態度を取り返さないこと。

高圧的な態度の裏に見え隠れする相手の希望や、置かれた状況や、交渉に応じるメリットデメリットを、冷静によくよく観察すること。

「あなたと、リングの外で、問題の終局的な解決に向けて、建設的な話し合いをしたい」と繰り返し伝えること。

 

それでも、相手がリングから降りずにギャーギャー言ってる場合は、最後はネタにして笑い飛ばすこと!

 

 

結局、人生なんて気のもちようなんだなと思いながら、今日もネタ集めと思って頑張ります。