負けるかもって言う度に怒んないでよもー
新型コロナウイルスで世の中大変なことになっていますが、皆さんお元気ですか?
私は新型コロナというよりも、弁護士稼業、特に依頼者対応にくたびれきって、離島で水平線の見える露天風呂に入って、ぼんやり鬼滅の刃(とても気になっている)でも読みたいな…って気分です。
いや、ね、弁護士なんて所詮人の争いごとに首突っ込んで引っかき回す商売なので、紛争の相手方から、バカやろーだのこのヤローだ言われるのには、だいぶ慣れてきたんです、これでも。
それでも、依頼者との間でうまくいかないのは、やっぱりしんどい。
後ろから刺されるっていうの?ツライ。
特に最近本当に憂鬱なのが、負け筋の事件で、「負ける可能性がある」っていう度に、「何でそんな弱気なこと言うんだ!」「何のために弁護士雇ったんだ!」って怒ったり不快になったりするお客様。
「何で言うんだ!」って、お、おみゃーさんが見通し聞いてきたから、言ったんだよ…!!
◆「負けるかも」って、もー言わない!
だからって、「そんな怒るならもうホントの見通しは言ーわない」ってわけにはいかない。
「ダイジョーブカテマスカテマス」とか「ウーンチョットヨミキレマセンネ」とか言って適当にお茶濁しといたら、そりゃ「負けるかもよ」→「何のために(略)」の流れで怒られることはなくなる。
でもさ、最後本当に負けちゃった時、お客様大爆発だよね。「お前ずっと勝てるって言ってたじゃないか!」ってマジギレされるよね。
切れるだけで済めばいいけど、何の備えもなく負けたら大ダメージ。
こりゃ無理だ、却下却下。
◆ってか、負けないように頑張れよ
お客様としては、これを求めてるんでしょう。わかりますわかります。
もちろん私も負けないように頑張ってはいるんです。
でもね。事件には筋ってもんがあるですわ、お客さん。
例えばの話ですよ、「お前の髪型が何か気に入らないから、クビ!」→不当解雇で訴えられたら、そら会社側は弁護士がどんなに頑張っても勝訴はできんのですわ。
それが事件の「筋」ってもんです。
どんなに弁護士が頑張ったって、起きてしまった事実は変えられないし、事実が変えられない以上、事件の「筋」も変えられないんです。
いやね、そりゃ判決出たら負けること前提に、何とか和解で落とせないか、あの手この手で交渉を試みますよ。頑張りますよ。それが弁護士の仕事だからね。
それから、もし和解が決裂して敗訴しちゃったときのために、損害を最小化する方法も必死に考えますよ。それも弁護士の大事な仕事だからね。
そして、負ける可能性や、負けた時のリスクや、その対処方法を伝えて一緒に考えることも、弁護士の大事な仕事(だと私は思ってる)わけ。
だからこそ、お客さんとの打ち合わせで、
「いや、本件やっぱりお客様にとっては不利でね、髪型気に入らないじゃ解雇は無理でね、これ復職の可能性ありますからね…」
って話すんだけど、話し始めた途端、
「何のために高い金払って弁護士雇ってると思ってんだ!」「できない理由ばっか探しやがって!」「弱気でつかえねーなチェンジチェンジ」
とかってなっちゃうのよ。
つまり何が言いたいかっていうと、弁護士がどんなに主観的には頑張っていようが、お客様が「弱気なこと言うな!」って怒ることはあるのです。
ま、そりゃそうだ。
◆事件の見通しは最初に言え!それでダメなら受けるんじゃない
ごもっともごもっとも。
そりゃ受任の段階ではっきり見通しのわかる事件は伝えます。
でもね、あんまり弱気なことばっか言ってると、事件とれないんだよね…
あと、往々にして、事件が進行する中で、とんでも事実が発覚して、一気に「そりゃ勝てないっすよお客さん…」ってなることもあるんだよね…
◆そもそも何でお客様はお怒りなのでしょうか?
そもそも「負けるかもよ」って言うと怒るお客様のお怒りの原因は何なのでしょうか?
・弁護士がそんな弱気でどーすんだよ!
・言い訳すんじゃねー!
・負けた場合のことなんて考えたくない!
・ちゃんと経験あんのかよ!
・お前のその態度が妙に気に食わない!
・だいたい年下のくせして、偉そうなんだよ!
あー悪口考えてたら、お腹痛くなってきた。
◆弱気な弁護士は嫌!
お医者さんに例えてみましょう。
患者さんが、主治医に、「先生、治りますか?」「治りますか?」と頻繁に聞いてくる。
それだけ、患者さんは不安なんだね。
その度に医者が「治らないかもしれませんね」「治る確率は高くないですね」と言う。
そりゃまあ嫌だわな。
嘘でも「治るようにがんばりましょう!」って言って欲しいよな。
前向きな方が免疫高まるしな。
でもさ、例えば、不治の病の患者さんに、「治りますよ!」ってウソ言っていいのか?
「治らない可能性が高い、余命はあと半年」って言ってあげる方がいいんじゃないのか?
だって、その方が残された人生を有効に使えるもの。
この場合、余命宣告することは、「弱気」とか自信がないのとはちょっと違う。
見通しが悪いなら悪いと言ってあげないと、判断の機会を奪ってしまう。
なぜ弁護士がお客さんに負ける可能性があると言うのかと言えば、負けた時のリスクに備えたり、負けた時にどう対処するか前もって考えるためです。
その意図というのを、わかってもらわないと、ただの弱気野郎認定されて終わるのです。
◆言い訳すんじゃねー
負けるのは、お前の能力不足だろ!
それを事件の筋とか証拠不足とかなんとかかんとか言いやがって!
古美門弁護士なら勝てるだろ!
言い訳すんじゃねー!!!
って言いたいんですよね、わかりますわかります。
いや、でも、さっきも言ったんですけど、これまでの事実経過を、昨今の裁判例に照らしてみて、どうやったって負け筋な事件というのはあるのです。
そりゃリーガル・ハイの古美門弁護士みたいに、「草の者」でも使って場外乱闘すれば別なのかもしれないけど、私、堺雅人じゃないし、ガッキーでもないし(見りゃわかる)、そんなこと私に期待しないでよ、お客さん。
言い訳じゃないってわかってもらうために、負けそうな理由をくどくど説明する度に、どんどん言い訳がましくなっていく…どーしたらいいんだ…
◆負けたときのことなんて、今考えたくない
そうでしょうそうでしょう、自分にとって都合の悪いことは考えたくないですよね、人間だもの。
でもさ、考えとかないと、いざ良くないことが起きた時、即座に対処できなくて、困るよね。
◆はぁーで結局どうしたらいいのさ
弱気や言い訳がましく思われず、敗訴可能性や、敗訴した場合のリスク・対処方法をお客様に伝えるには、どうしたらいいのか?
・常日頃から強気な言動をする。
→キャラ的に無理。
・見た目からして強気に見えるように、身体鍛えて筋肉モリモリにする。
→リ、リリコ…?
・金髪にして派手なスーツ着たりする。目指せ、中里 妃沙子先生。
→あと20年くらいは無理かな…
・「敗訴可能性や、敗訴した場合のリスク・対処方法を検討しておきたい」ときちんと伝えてから、話し出す。
・話すタイミングに気をつける。どれだけ丁寧に繰り返し話しても、顧客は、私の話なんぞ信じちゃいない。なので、裁判官から不利な心証開示されて、顧客が「うわ、本当にヤバいんだ…」と気づき出したら、ここぞとばかりに、負けたときのことを話す。
・それでも怒るお客様は…もうどうにもならない。今は耐える。次からは受けない。
こんな長々書いてきて、結論これだけなのが泣くに泣けませんが、まあお客様、そんなに弁護士怒らないでよね…。